宗教法人の「承継」とは?代表役員変更の手続き・財産管理・後継者問題をわかりやすく解説 

先日は建設業の事業承継(*1)について取り上げました。もちろん、事業承継は建設業界だけの問題ではなく、全ての業界に共通する課題です。宗教法人でも檀家減少や後継者の不在などで、宗教を問わず、法人の存続危機は切実な問題となっています。

特に宗教法人の場合、存続が絶たれることは内部の問題だけに留まらず、そこに集う信者の心の拠り所を奪うことにもなります。また、宗教法人が墓地や保育所などを運営している場合が多く、大きな問題に繋がる可能性を含んでいます。そこで、今回は宗教法人の承継について取り上げたいと思います。

この記事のポイント

  • 宗教法人の承継は、一般企業の事業承継や株式譲渡と同じではありません。

  • 宗教活動や法人運営を次の世代へ引き継ぐには、まず法人ごとの規則を確認する必要があります。

  • 代表役員の変更後は、変更登記や所轄庁への届出などが必要です。

  • 法人が所有する土地・建物・預金は、代表役員個人の財産ではありません。

  • 後継者がいない場合は、後継者探しのほか、合併や任意解散なども選択肢となります。

 

宗教法人の代表者が高齢になった、後継者が決まった、宗教活動を次の世代に引き継ぎたい。

このような場面では、「宗教法人を承継する」という言葉が使われることがあります。

 

しかし、宗教法人の承継は、一般企業の事業承継や会社の株式譲渡とは同じではありません。

宗教法人には「宗教法人法」という特別な法律が定められています。この宗教法人法は法人ごとの「規則」を一番に重視しています。法人の運営、代表役員の選任、財産の管理などについて、法人ごとの「規則」で定めることとなっています。

 

また、近年、文化庁は「宗教法人の売買に類似した取引」について注意喚起を行っています。宗教法人を適切に次の世代へ引き継ぐためには、何を引き継ぐのか、どのような手続が必要なのかを正しく理解することが大切です。

 

*1「【2026年版】建設業許可は事業承継・M&Aで引き継げる?法人化・相続・事業譲渡の注意点を解説」

 


 

1. 宗教法人の「承継」とは何を引き継ぐことか

まず、「宗教法人を承継する」といっても、会社のように法人そのものを売買するという意味ではありません。

 

宗教法人の承継では、一般的には、

  • 宗教活動

  • 宗教法人の運営

  • 代表役員、責任役員等の組織体制

  • 宗教法人が所有及び管理する財産

  • 信者との関係

  • これまでの宗教活動や組織

などを、法人の規則に従って次の世代へ引き継いでいくことを意味します。

 

特に重要になるのが「代表役員」です。

 

宗教法人には原則として3人以上の責任役員を置き、そのうち1人を代表役員とします。代表役員は宗教法人を代表し、その事務を総理します。誰が代表役員になるのかについても、それぞれの法人の規則に従って決定することになります。

 

したがって、宗教法人の承継を考える場合には、まず「誰が次の代表役員になるのか」だけを見るのではなく、その宗教法人の規則上、どのような手続で役員を選任することになっているのかを確認することが重要です。

 

宗教法人の法人格や設立要件については、「宗教法人設立の基礎知識:4つの必須条件」でも詳しく解説しています。

 

2. 宗教法人は一般企業のように「売買できる」のか

宗教法人は一般企業のように「売買できる」のか

結論からいうと、宗教法人を一般企業のように「売る」「買う」という考え方は適切ではありません。

株式会社であれば、株式を譲渡することで会社の支配権が移るという仕組みがあります。

しかし、宗教法人には株式会社のような「株主」は存在しません。

 

宗教法人は、宗教団体が礼拝施設その他の財産を所有、維持そして運用し、宗教活動を行うために法律上の能力を与えられた法人です。宗教活動を継続そして承継する意思のない第三者が、単に法人格を取得することは、宗教法人法の目的に合致しないと文化庁も説明しています。

 

そのため、「宗教法人を買って、その法人格だけを利用する」という発想には大きな問題があります。

 

3. 文化庁が問題にする「売買に類似した行為」とは

では、文化庁がいう「宗教法人の売買に類似した行為」とは、具体的にどのようなものでしょうか。文化庁は、節税や税制優遇などへの活用を掲げ、宗教法人の代表役員の地位など、法人運営に深い影響を及ぼす地位を、金銭その他の財産上の利益を与えることによって取得する取引行為を挙げています。

 

つまり、「宗教法人としての活動を引き継ぎたい」という承継ではなく、「宗教法人格を利用したいので、代表者の地位をお金で取得する」というような取引が問題になります。こうした取引は、宗教法人格が脱税やマネー・ローンダリングなどの違法行為に利用されるおそれがあるため、文化庁が注意喚起を行っています。

 

4. 適正な宗教法人承継と不正利用の違い

 では、適正な承継と不正利用は何が違うのでしょうか。

 

大きなポイントは、宗教活動を引き継ぐ意思があるかどうかです。

 

たとえば、現在の代表者が高齢になり、同じ宗派・教団の中で後継者を決め、規則に従って代表役員を変更し、これまでの宗教活動を継続していくのであれば、通常の事業承継とは異なるものの、適切な宗教法人運営として検討することができます。

 

一方、「宗教活動は行わないが、宗教法人格だけ欲しい」「税制上のメリットを利用するために法人を取得したい」「代表役員の地位を金銭で譲渡する」といった場合には、文化庁が問題視している「売買に類似した取引」に該当する可能性があります。承継を考える際には、法人格ではなく、宗教活動と法人運営を適切に引き継ぐことが重要となります。

比較するポイント 適正な宗教法人承継 売買に類似した行為
主な目的 宗教活動と法人運営を継続する 宗教法人格や代表役員等の地位を取得する
宗教活動 これまでの活動を引き継ぐ 宗教活動を継続する意思がない
代表役員等の変更 法人の規則に従って行う 金銭その他の利益と引き換えに地位を取得する
 
 

5. 代表役員を変更するときにまず規則を確認する

宗教法人の代表役員を変更するとき、最初に確認しなければならないのが「規則」です。

代表役員の選任方法、責任役員の人数、選任・退任の手続、包括宗教法人との関係などは、法人によって異なります。これらは全てそれぞれの規則に従わなければなりません。

まずは現在の規則を確認し、その法人で定められた手順に従って選任することが大変重要です

 

6. 代表役員変更に伴う主な手続き

代表役員が変更された場合には、内部の選任手続だけで終わるわけではありません。

 

一般的には、

  1. 新しい代表役員を適切な手続で選任する

  2. 決議によって選任した場合は、その会議の議事録等を作成する

  3. 代表役員の変更登記を行う

  4. 所轄庁へ届出を行う

  5. 銀行、不動産、契約関係などの名義及び権限を確認し、必要に応じた手続きをする

といった対応が必要になります。

 

宗教法人の登記事項には代表権を有する者の氏名、住所、資格などが含まれており、変更があった場合には変更登記が必要です。登記後は、所轄庁への届出も必要になります。

特に、代表役員が変更されているにもかかわらず登記を放置することは登記上の法律に反し、取引上の問題につながる可能性もあるため注意が必要です。

 

7. 規則変更が必要になるケース

承継に伴って、必ず規則変更が必要になるわけではありません。

しかし、現在の規則では新しい運営体制に対応できない場合や、代表役員の選任方法、役員構成、法人の組織などを変更する必要がある場合には、規則変更を検討することになります。

 

宗教法人の規則は、単なる「社内ルール」ではありません。宗教法人の運営を行ううえで重要な基準となるため、実際の運営と規則の内容が一致しているかを確認することが大切です。

 

規則変更や宗教法人の運営上の注意点については、「宗教法人の許認可申請でよくある失敗事例と回避方法」もあわせてご確認ください。

 

8. 財産(境内地建物も含む)の管理で注意すべきこと

宗教法人の承継で特に注意したいのが財産の問題です。

 

宗教法人が所有する土地、建物、預金などは、代表役員個人の財産ではありません。

文化庁も、宗教法人の財産は宗教法人自身の財産であり、代表役員や責任役員個人の財産ではないことを明確にしています。法人財産と個人財産を明確に区別して管理することが重要です。

また、不動産の処分、担保設定、一定の借入等の主要な境内建物に関する行為などについては、宗教法人法上、公告などの手続が必要になる場合があります。

 

「代表者が変わるだけだから、財産については何もしなくてよい」と考えるのではなく、法人名義の不動産や財産目録、預金、契約などを一度整理しておくことが重要です。

 

9. 後継者がいない宗教法人が検討すべき選択肢

後継者がいない場合、無理に第三者へ法人格を譲渡することは避けるべきです。

 

宗教活動の継続が難しくなった場合には、

  • 後継者を探す

  • 包括宗教法人などに相談する

  • 他の宗教法人との合併を検討する

  • 任意解散を検討する

などの選択肢があります。

 

文化庁も、活動継続が困難となった宗教法人について、合併や任意解散などの手続を案内しています。重要なのは、法人としての意思決定ができなくなる前に、早めに所轄庁や包括宗教法人へ相談することです。

 

任意解散を検討する場合の手続きについては、「宗教法人の解散を徹底解説|任意解散の流れと必要書類」で詳しく解説しています。

 

10. 宗教法人承継に関するよくある質問

Q1宗教法人を他人に譲ることはできますか?

 

株式会社のように「法人そのものを売買する」という考え方はできません。宗教活動を継続及び承継することを前提として、規則に従って役員を変更するなど、適切な法人運営を行う必要があります。

 

Q2代表役員を変更すれば、宗教法人の承継は完了しますか?

 

代表役員の変更だけで終わるとは限りません。規則の確認、議事録の作成、登記、所轄庁への届出、財産や契約関係の確認など、法人の状況に応じた手続が必要です。

 

Q3宗教法人の土地や建物も後継者に引き継がれますか?

 

土地や建物は代表役員個人の財産ではなく、宗教法人の財産です。そのため、代表役員が交代しても、原則として法人が所有する財産であることに変わりはありません。

 

11. 宗教法人の承継は「法人格」ではなく「宗教活動」を引き継ぐこと

宗教法人の承継は、一般企業のM&Aとは大きく異なります。大切なのは、法人格そのものを「売る/買う」という発想ではなく、これまで行ってきた宗教活動を、宗教法人法と法人の規則に従って、次の世代へ適切に引き継ぐことです。

 

そのためには、まず現在の規則を確認し、代表役員や責任役員の選任方法、財産の管理方法、包括宗教法人との関係などを整理することから始める必要があります。

 

また、後継者が決まっていない場合には、問題を先送りにせず、活動が継続できるうちに選択肢を検討することが重要です。

 

宗教法人の承継については、法人ごとに規則や組織、財産状況などが異なります。

l   代表者が高齢になった

l   後継者を決めたい

l   宗教法人を次の世代に引き継ぎたい

l   後継者がいない

l   宗教法人を他の法人と統合できるのか知りたい

このような場合には、まず現在の規則や法人の運営状況を確認することをおすすめします。

 

行政書士法人LexArrowでは、宗教法人の設立、運営、規則変更、代表役員変更、承継、合併・解散などについて、法人の状況を確認しながら手続をサポートしています。

宗教法人の承継についてお困りの方は、「宗教法人設立・運営サポート」をご確認のうえ、まずはお気軽にご相談ください。

 

※本記事は、2026年9月15日時点の法令および文化庁等の公表情報をもとに作成しています。具体的な手続きや必要書類は、宗教法人の規則や所轄庁によって異なる場合があります。

【参考情報】

宗教法人法|e-Gov法令検索

宗教法人格の不正利用について|文化庁

宗教法人の売買に類似した取引による違法行為への対応等について|文化庁

 
 

著者プロフィール

著者:木村 亜矢(行政書士)
行政書士法人LexArrow代表。法政大学法学部卒業後、一橋大学大学院法学研究科を修了。建設業許可申請、宗教法人関連手続き、外国人雇用・在留資格(ビザ)申請など幅広い分野をサポートし、全国建行協や所沢商工会議所に所属。埼玉県所沢市を拠点に、地域と企業の発展を支える行政書士として活動中。→ 事務所概要はこちら


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